文書作成日:2025/03/27

従業員が入社する際に行うべき法的手続きとその留意点

4月は新卒の従業員を始め、従業員の入社が多い月になります。入社式の準備から、入社後直後の研修、配属先の手配と総務部門では業務が集中する時期ですが、労働条件の明示等、法律上定められたことも忘れずに行う必要があります。そこで今回は、従業員の入社時に留意しておきたい手続きについて、そのポイントを解説しましょう。

[ 1 ]
労働条件の明示

 企業が従業員を雇い入れるということは、従業員が労働力を提供し、労働の対価として企業が賃金を支払うという労働契約が成立することを意味します。この労働契約は、必ずしも書面で行う必要はなく、口頭でも成立します。
 しかし、口頭での契約は、労働条件の説明が不十分となり、入社後に労働条件の認識の違いによるトラブルに発展するケースもあることから、労働基準法第15条では、労働契約を締結する際に「労働条件を明示しなければならない」と規定しており、更には、労働条件のうち以下の特に重要な事項については書面の交付による明示が必要になっています。なお、従業員が希望した場合は、FAX、電子メール、SNSメッセージ機能等の送信により明示することも可能とされています。

  1. 労働契約の期間に関する事項
  2. 有期労働契約の更新の有無、更新する場合の判断基準(通算契約期間または有期労働契約の更新回数に上限の定めがある場合にはその上限を含む)
  3. 就業の場所および従事すべき業務に関する事項(就業の場所および従事すべき業務の変更の範囲を含む)
  4. 始業および終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇ならびに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
  5. 賃金(退職手当や臨時に支払われる賃金等を除く)についての次の事項
    • 賃金の決定、計算および支払の方法
    • 賃金の締切および支払の時期
  6. 退職に関する事項(解雇の事由も含む)
  7. 有期契約労働者に対する無期転換申込機会・無期転換後の労働条件
 なお、パートタイマーや有期契約労働者を雇い入れたときは、1~7に加え、パートタイム・有期雇用労働法により、昇給、退職手当および賞与の有無、パートタイム労働者の雇用管理の改善等に関する事項に係る相談窓口を、書面の交付等により明示する必要があります。
[ 2 ]
試用期間
 入社前の採用選考では、適性検査や面接を行うことでその人物を見極めることが一般的ですが、現実的には適性検査や面接だけでは業務に対する適格性を判断することは難しいものです。そのため、技能、能力、勤務態度、健康状態等を判断する期間として試用期間を設けることがあります。
 この期間については、通常の従業員の解雇と比べると、解雇が一定程度広く認められていると考えられています。ただし、実際に本採用を見送り解雇するためには、以下の点を押さえておく必要があります。
  1. 試用期間の長さ

     試用期間は、能力や適性によっては本採用見送りになる可能性があるということであり、従業員側から見れば、雇用が不安定な状態にあります。よって、必要以上に長期の試用期間を設定した場合にはそれが無効とされた判例もあります。多くの企業では3ヶ月から6ヶ月程度の試用期間が設定されていますが、1年を超えるような長期の試用期間は通常、法的に問題があると考えるべきでしょう。

  2. 試用期間中の本採用見送り(解雇)

     試用期間中であっても、無制限に解雇が認められるわけではありません。判例では試用期間中であっても「客観的に合理的な理由が存在し、社会通念上相当と是認される場合」に解雇が認められると示されています。要するに、試用期間中の勤務状況、能力、意欲、態度等から本採用することが客観的に見て適当ではないと判断されるときに限り、解雇は有効とされます。

  3. 試用期間を設定する際のポイント

     試用期間を設定する場合は、以下の事項を就業規則に規定し、従業員に事前に説明する必要があります。

    • 試用期間の目的
    • 試用期間の長さ
    • 試用期間中の賃金やその他の労働条件
    • 本採用を見送るときの基準
    • 試用期間の延長に関する事項
    • 勤続年数の算定における試用期間の取り扱い
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雇い入れ時の健康診断

 労働安全衛生法には、従業員の健康管理に関することが規定されています。その一つに健康診断の実施があり、常時使用する従業員を雇い入れる際には、法定で定められた項目について実施することを義務付けています。この常時使用する従業員とは、正社員だけではなく、パートタイマーや有期雇用労働者等であっても、以下の2つの要件のいずれにも該当する者を指します。

  • 契約期間の定めのない人や、契約期間が1年以上である人、契約の更新により1年以上使用されることが予定されている人、既に1年以上引き続き使用されている人
  • 1週間の所定労働時間数が、その事業場の正社員の4分の3以上である人
 なお、健康診断の実施は必ずしも入社後に行う必要はなく、定められた項目について3ヶ月以内に受診したものがある場合には、その証明ができる書類を提出することで省略することができます。

 入社時には以上のような法的留意点があります。これらを遵守し、従業員に対し十分な説明を行うことで不要なトラブルを防ぎましょう。

■参考リンク
厚生労働省「令和6年4月から労働条件明示のルールが改正されます
厚生労働省「健康診断を実施しましょう

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。

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